今回もまたカブちゃんの会社関係の知り合いであるところのＫ夫妻にお誘い頂き、出掛けてみたのは西荻窪のビストロ「さて」
週末の金曜日、東京駅から中央線に乗り約２０分で荻窪に到着、そこからＪＲを乗り換え一駅のアクセス。思いのほか、近い。前の職場の上司の自宅が三鷹にあったのだが、その三鷹は西荻窪からは吉祥寺を挟んでさらに２駅の距離だ。毎日三鷹から通っている人のことを考えれば、遠いと思っていた西荻も意外と遠くないことにあらためて思い至る
西荻窪は東京でも好きな街の一つだ。こけし屋、もぐもぐ、カレーの”スプーン”、物豆奇（モノズキ）などの喫茶店、そして数あるパン屋・・。立ち寄りたいお店がたくさんある。住んだらとても居心地のよさそうな街だろうなと思う
ところでこの「さて」だが、どうやら年内の閉店を予定しているそうだ。いろいろ事情はあるのだと思うのだが、しかし来てみてビックリ。コース料理が４千円で、出てきた料理が以下の通り。品数もさることながら一皿ずつの料理の質もきわめてレベルが高いと感じた。どれも仕事が丁寧で味付けも絶妙。ビストロ料理というと塩気が強めだったり油が多めなものも多いと思うのだが、日本人の好みに合った味わいだと思う
ボトルの赤ワインはメニューの中からお勧めを聞いて選んだもの。コート・デュ・マルマンデというＡＯＣはあまり聞き覚えのない名前だが、ボルドーのアントル・ドゥ・メールに隣接しているようだ
このワインの名前は「ル・ジェイ」。鳥の”カケス”を意味する名を持つこのワインのセパージュは、ボルドーの伝統品種であるカベルネ・ソービニヨン、メルロ、カベルネ・フラン、そしてシラーに加えさらに”アブリュウ（Abouriou）”というブドウが使用されているようだ。これら５種のブドウ品種を使用して”５GRAPES”という名前になっている。”アブリュウ”は初めて聞いた品種だがどうやらこの地域の土着品種らしい。何年もワインを飲んできたが、まだまだ知らないブドウ品種がある
メインの料理はいくつかの中から選ぶことができたが、牛肉はビーフシチューか赤ワイン煮で食べるのが一番おいしいのではないかと考えている僕はここでも牛肉の赤ワイン煮をチョイス。カブちゃんはタンシチュー、そしてＫ夫妻のご主人は僕と同じ赤ワイン煮、奥様はウィナー・シュニッツェルをそれぞれ選んだ
赤ワイン煮はこれまでもいろいろ食べてきたはずだが、これはかなり好みな部類に属すると思う。牛肉の淡白さは残しながら柔らかく煮込まれた牛肉はナイフを入れると柔らかくホロホロと崩れる。そして当然のことながら赤ワインにもよく相乗した
非常にお値打ちのビストロ、というのが率直な印象だ。４千円でこれほどの品数、これほどの味わいが堪能できる店というのは都内でもそれほど多くないだろう。年内に営業を終えてしまうというのはとても残念だが、こればかりは部外者がどう考えたところでどうしようもない
しかしこのお店の居心地の良さはいったい何だろう？
例えば照明。個人的には少し暗めの白熱球を使用した照明はとても心地よく感じた。煌々とした明るい照明よりも少し暗めが好みだ。何故だか理由は判らないが、雰囲気があってとてもいい
世の中には白日のもとにさらされなくてもいいんじゃないかと思うこともある。無人島は無人島のままでいいし、古墳は掘り返さなくていいし、暗い夜道には妖怪がうじゃうじゃいてもいい。そんな風に考えている。約７万年前にアフリカを出たホモ・サピエンスが新大陸に進出するやいなや現地で進化してきた動物たちはあっという間に絶滅しまったそうだ。高松塚古墳は研究のために掘り返してしまったおかげで貴重な壁画にはカビが生えてしまった。そして、東京の夜道は一晩中蛍光灯にさらされ妖怪が跋扈するには明るすぎる。どれも今となってはどうしようもないことだが
少し話がそれてしまったかも知れない
あるいは「さて」の居心地の良さは音楽のせいかも知れない。大きなスピーカーから流れるのは古いジャズだ。マイルス・デイビスの”Someday My Prince Will Come”であったり、ビル・エバンスの”My Foolish Heart"であったり。曲のチョイスは店主の奥様、ひかるさんの役目のようだったが、照明と音楽はとても大事な要素だと考える僕にとって「さて」のそれらはとても居心地のよいものだった
カブちゃんとは、閉店してしまう年末までにまた一度は訪問してみたいね、という話をしている。おそらくその日はそう遠くないと感じているが、しかしもったいないものだ。どういう形であれ、このお店の料理の味が残ってくれればよいのだが・・
ビストロ さて
東京都杉並区松庵3-31-16-107
03-3331-1142
